「エフェクターの基礎知識3 コンプ/リミッター」


エフェクターとは言うまでも無く入力された原音に対して何らかの処理を施して音を変化させる機械のことを言います。近年ではDTM音源やデジタルミキサー等に内臓されるようになり実に手軽にエフェクターを使えるようになりましたが、一口にエフェクターと言ってもどんな処理をするかによって実に様々な種類があります。ちょっと聞いただけではほとんど効果がわからない物からすぐにそれだとわかるような物まであるのです。
  そのエフェクターの仕組み、使い方については以外と知らないのではないでしょうか?
というわけでここでは「エフェクターの基礎知識3」ということで、使い方が難しいと言われている「コンプ/リミッター」についてお勉強してみようと思います。



1、コンプ/リミッターとは?

ちょっと前までは、コンプ/リミッターというエフェクターはプロだけが使う物という感がありましたが、最近ではもろもろの機器のデジタル化が進み、割と簡易的な音響機器にもコンプ/リミッターが標準的に装備されているものが多くなりました。
コンプ/リミッターという名前は電子楽器や多重録音経験のある人であれば一度は聞いたことがあると思いますが、その原理、使い方については全く知らないという人が多いと思います。
それは、使い方が難しいということも要因の一つですが、たいていの人は「ほとんど音が変わらないから面白く無い」と感じて途中放棄してしまうケースが少なくないようです。
確かにコンプ/リミッターの効果はパッと聞いた感じではそれほど音が変わったようには聞こえませんが、プロの録音現場ではコンプ/リミッターは最も多用されている重要なアイテムの一つなのです。CD等の普段我々が聞いている音楽でコンプ/リミッターを使っていない物があったら逆に教えて頂きたい位です。
さて、コンプ/リミッターとはコンプレッサーとリミッターという意味であるのですが、回路自体が全く別物と考えている人が多くいるようですが、コンプレッサーとリミッターは全く同じ回路で動作します。コンプレッサーとして働くかリミッターとして働くかはコンプ/リミッターの入力信号とパラメータの設定によって決定されます。
コンプ/リミッターの基本的な機能としては「ダイナミック・レンジをロスなく縮小する」とでも言えばいいでしょうか。
もう少し具体的な説明をしますと、ある日あなたが生オケの演奏会を聴きに行ったとします。その時の演奏が始まる寸前の静寂状態を仮に20dBSPL(サウンド・プレッシャー・レベル=音圧レベル)とします。徐々に演奏が進んで演奏時の最大音量が120dBだったとします。この時の演奏のダイナミック・レンジは単純な引き算で120dB-20dBで100dBのダイナミック・レンジだったことになります。
次の日FMでデジタル録音された先日の演奏を放送することを知ってそれをMDにエア・チェックしたとしましょう。MDをはじめとするデジタル機器のダイナミック・レンジは90dB前後ですから、生で聴いた演奏とは10dBのギャップがあることになります。そのギャップをロスなく縮小してしまうのがコンプ/リミッターなのです。
図1はその原理をグラフにしたものですが、Aは生演奏のそのままで100dBありますが、Bはそれを対数圧縮して60dBにしたものです。これがコンプレッサーの原理です。もう一つCは単純にピークを60dBに抑えたものです。これがリミッターの原理になります。























更に具体的な使い方を幾つか述べますと、ボーカルには必ずといってよいほどコンプレッサーが使われています。ボーカルの場合、声量が上がった時のピークを押さえるリミッター的な使い方と、声量が下がった時、周りのオケにもぐってしまわないようにするコンプレッサー的なありますがもちろん同時にかけるということもありえます。
また木管楽器のように音量が安定していない楽器にはコンプレッサーが使われることが多い様です。


2、コンプ/リミッターのパラメータ

さて、それではコンプ/リミッターのパラメータにはどのようなものがあってどのような働きをするのでしょうか。

2ー1、レシオ

これは日本語に直訳すると「比率」という意味になります。つまり入力と出力の比率ということです。実際には入力:出力という表示で表されます。
図2はレシオを変えた場合の入出力表です。点線は入力と出力が同じ場合で、実線がコンプレッサーやリミッターをかけた時のカーブです。あるポイントから傾きが変わっていますが、この傾きを決定するのがレシオです。
























例えば実線Aは、X点から入力が2倍になっても出力は1.5倍にしかなっていませんからレシオは2:1となります。同様に考えて、実線Bは入力が2倍になっても出力は1.25倍にしかならないのでレシオは4:1となります。そして実線Cは8:1、実線Dは20:1となるのですが、レシオが20:1となると、いくら入力を上げても出力はほとんど増加しませんので、これはリミッターとして機能すると言えます。そして2:1や4:1に出力を圧縮している場合がコンプレッサーとして機能するという線引きが出来ます。
ただ最近のデジタル・ミキサーなどに内臓されているコンプ/リミッターの場合、設定が比率ではなくグラフで視覚的に設定出来る物もありますので随分分かりやすくなりました。

2ー2、スレッショルド・ポイント

図2で出力の傾きが変化するポイントXですが、これをスレッショルド・ポイントと言います。直訳すると「発端」という意味になります。
図2ではスレッショルド・ポイントを同じにして傾きを表しましたが、レシオが20:1の実線Dの場合、実際にはスレッショルド・ポイントをもっと上げてやらないとどんなに入力を上げても音が前に出てこない結果になってしまいます。
そこで各レシオの最大出力が同じになるように設定した場合の図が図3です。






























レシオが1.5:1の時はスレッショルド・ポイントをかなり低いレベルに設定し、逆にレシオが20:1の時はスレッショルド・ポイントをピークぎりぎりに設定します。これを見るとコンプレッサーとリミッターの違いがはっきり分かると思います。
例えば、ボーカルにコンプレッサー(レシオ2:1)をかけた時、点Yと点Zでは入力が10dB上がっているのに、出力は5dBしか変化しないわけですから、全体のレベルを揃えて録音出来るわけです。逆にリミッター(レシオ20:1)をかけたとすると、途中の出力はそのままですが、ピークだけはぴったり抑えられるという仕組みです。

2ー3、アタック・タイムとリリース・タイム

このパラメータは、付いているものと付いていないものがありますが、たいていのコンプ/リミッターには付いていると思います。
これはシンセのエンベロープのアタックとリリースと同じ意味で、アタック・タイムは入力がスレッショルド・ポイントを過ぎてから効果がかかり始めるまでの時間を設定します。一方リリース・タイムは、入力がスレッショルド・ポイント以下になってから効果がとけるまでの時間を設定します。
もちろん理想論で考えれば瞬時に効果がかかる方がいいわけですが、これを利用して音色を作ることも出来るのです。
例えば、アタック・タイムが速くリリース・タイムが比較的遅い設定にしたコンプレッサーをタムの音にかけたとします。すると、アタックのあとのレベルの大きい部分はコンプレッションされて出力はそれほど上がりませんが、余韻の部分はコンプレッションされない出力が得られるので、きれいな余韻が残るタムの音色が出来ます。
よくCDなどで「トゥーン」ときれいに余韻の残る音色を聞いたことがあると思いますが、これらはたいていコンプレッサーが入っていると考えて間違いありません。

3、コンプ/リミッター使用時の注意点

ここまででコンプ/リミッターの概要はお分かり頂けたと思いますが、要するにかける音源の音色、性質によって使い分けると良いということです。
しかし、注意点もあります。
まずレシオですが、パラメータとして表現されている比率を鵜呑みにしない方が良いということです。(私の経験では・・・)
例えば、レシオ2:1と表示されていても、実際には4:1位であったり、20:1と表示されていても8:1位という具合です。
これは特に単体のエフェクターとして存在しているコンプ/リミッターに多く見られるようです。
一度リミッターをかけてしまった音はEQと違って元に戻すのはほとんど不可能です。
自分の使おうとしているコンプ/リミッターの特性を経験で把握しておくのが重要です。
それからライブ現場での使用時も注意が必要です。
ポイントはコンプ/リミッターの使い過ぎに注意するということ。
例えば、演奏時ボーカルがもぐってしまうのでボーカルにコンプレッサーをかけたとします。その結果ボーカルの音量(ミキサーのフェーダー)を20dB上げることが出来ました。しかしここで問題なのはライブなのですから当然ボーカルマイクには周りの別の楽器類の音がかぶっているわけです。ということはボーカルを20dB上げたらかぶりも同様に20dB上がってしまうわけで、結局ボーカルはオケにもぐってしまう結果になり何の解決にもなりません。
また、全体のバランスをとる際、ボーカルが聞こえないからボーカルを上げる、その結果全体のピークが上がり過ぎマスターを下げる、しかし全体の音量が下がってしまい今度はベースやドラムを上げる、・・・・・・もうこうなってしまっては底なし沼です。結果最初からやり直しということになってしまいます。
もしボーカルがもぐってしまっているのなら、まずボーカルをもぐらせている音色(楽器)をチェックするべきです。その音色を下げてなおボーカルがもぐるようならそこではじめてコンプレッサーをかければ良いのです。
そうすれば20dBもコンプレッションしなくても5dB位で済むかもしれず、周りの音色に与える影響も最小限で済みます。
最後に、コンプ/リミッターは悪い言い方ですが人の耳をごまかす為に使うものです。それを使う人がごまかされてはダメということが言えます。


今回のお勉強はこれで終わりです。